地域でそこしか医院がなかったから、
町内で、風邪を引いたり熱が出たり、具合が悪くなった人は、
当たり前のようにカワノ医院に行くしかなかったんですが、
地元の評判はあまりよくなく、
「診療が雑だ」「人の話をよく聞かない」など、よくない噂もありました。

 

でも、本当はそうじゃないんだな、と、思ったことがいくつかあり、
私は結構、好きな先生でした。

 

ひとつ目は、私が20代で熱を出した時に、
「腎盂炎だと高熱が出るから、もし熱が出たら、明日、また来なさい」
と言われたこと。

 

医師なら当然の発言かもしれませんが、それってGWの前日なんですよ。
つまり、「明日」は、通常なら休診日なんです。

 

カワノ先生は、子供が熱を出してすがるような思いで時間外に電話しても、
学会などを理由に、そっけなく看護師さんに断られることが多く、
個人的に「冷たい医者だ」と思っていたのですが、
大事を取ったほうがいい場合には、誠意をもって対応してくれるんだな、と、思いました。

 

結果的に、私は腎盂炎ではなく、ただの風邪で、熱もさほど出なかったのですが、
先生は先生なりに、長年の経験と勘で、放って置いてもいい患者さんとそうでない患者さんは、
きっと、わかるんだろうな、なんて思いました。

 

もうひとつは、私の祖母が亡くなる前に快く何度か往診してくれたことです。
いまは、あまり「往診」というシステムもなくなりましたが、
20数年前のその当時も、すでに家まで来てくれる先生は少なく、
電話したときも、まさか家まで来てくれるとは思っていなかったのですが、
ものすごくあっさりと「じゃ、行きますから」と聞いて、逆にびっくりしてしまいました。

 

祖母はその頃、病院や特養を出たり入ったりしていたのですが、
その後、体調悪化で再び総合病院に入院したときに意識が亡くなり、
そのまま目を開けることなく、病院のベッドで眠ったまま84歳の生涯を終えました。

 

入院したのは総合病院でしたが、地域に主治医がいるということがとても心強く、
しかも、亡くなる前は自宅に往診にまで来てくれて、
私は今まで以上に、地域の医院っていいな、と思いました。

 

我が家は父が転勤族だったので、今の場所に両親が家を建てるまで、
地域に根を下ろすということがなく、地域の医院との関係性も第三者的なものでしたが、
今の場所に長く住んで初めて、地域の医院を大切にすべきだと思いました。

 

カワノ医院には、祖母、両親、高校生のときからの私、そして子供達もお世話になりました。
(私は結婚しても実家で暮らしている、いわゆる「マスオさん」一家です)

 

カワノ先生は、胃カメラのときの指示が独特の抑揚で、
「はい、右を向いて~」「はい、左を向いて~」というときの癖のある妙な言い回しが、
今でも記憶に残っています。

 

カワノ先生の娘さんが、私の妹と同じ中学の同級生なので、
カワノ先生は、私達姉妹の父と同じ世代ということになるのですが、
お医者さんというのは、やはり特別な存在で、
そういうことはあまり考えたことがありませんでした。

 

ですが、その後、久しぶりに診察を受けたときの先生は、
「雑」「大雑把」といった、かつての豪快な感じが消えていて、
脂っけの抜けた、おじいちゃんという感じでした。
そうよね、うちの父もそのとき生きていれば、70手前。
私も、もちろんそうだけど、先生だっていつまでも若くはないのです。

 

カワノ医院はその後、診療をやめて、今は、広くて古いただの普通の家になっていますが、
最近、この地区に引っ越してきたような若いファミリーは、
あそこが地域でたったひとつの病院だったなんて、わからないだろうな。





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